k.onodera 2013年黒獅子ベストテン

 

今年もベストテンの時期がやってまいりました。
『ムーンライズ・キングダム』の、「あのトランポリンのところで話そう」というギャグは腹を抱えて笑いましたし、怪獣と巨大ロボのことしか描かなかった『パシフィック・リム』の潔さ、『死霊のはらわた』や『悪魔のいけにえ』の、出来の良いリメイクが作られるなど、アメリカ映画の安定したクォリティと幅の広さに、改めて圧倒された1年でした。
その一方で、高畑勲監督と宮崎駿監督の、おそらくは最後、そして代表作のひとつになるだろう劇場長編作が公開されるというビッグイベントもあり、選定が非常に困難であったことを書き添えておきます。
それでは、ランキングの発表と講評をどうぞ。

 

01.『リンカーン』 Lincoln スティーヴン・スピルバーグ

アメリカの良心と、崇高な理念を結実させるための妥協と権謀、そして個人的な理想が人類の夢につながっていく過程を力強く描ききった、スティーヴン・スピルバーグの最高作。
昨年、5位に選んだ『戦火の馬』のラスト・シークエンスについて、ジョン・フォードとのつながりを問題にしたが、今回は『西部開拓史』などのジョン・フォード映画そのものの映像が何度もあらわれ、かつてフォードが『アイアン・ホース』で描いた、多民族による建国精神と、ジョン・ウェインなどに演じさせた、そして黒澤明の『七人の侍』における「気持ちの良い男ども」を再現する。
レースカーテンのなかで光に包まれる親子。ランプの光のなかに灯る「ゲティスバーグ演説」の信念。ここまで美しく熱く深い感動的な映画を、スピルバーグが完成させるとは思ってもいなかった。
同じくジョン・フォードの意志を引き継ぐ、トニー・スコットや宮崎駿が、死去や引退で映画界を離れたというさみしさを、この映画はじんわりと慰めてくれる。
また、ここで語られる民主主義の尊さは、いつの時代にあっても見られるべきテーマであるが、それが危機を迎えている現在、さらに重要なものとして感じられる。真の傑作。

 



02.『かぐや姫の物語』 高畑勲

日本映画・アニメ史にとどまらず、世界映画史に100年以上残る作品になるはず。
従来の製作方法を根本から変えることで、アニメーション表現の根源に肉薄し、個人で作り出すアートアニメーションと、スタジオの集団で作る商業アニメーションを融合させたことは、ものすごい偉業。
また2013年は、高畑勲監督に多大な影響を与えたアニメ作家フレデリック・バックが亡くなった年としても記憶に残るだろう。
▼この映画の魅力について、前後編に分けて徹底的にレビューをしています。
『かぐや姫の物語』生命を吹き込む魔法【レビュー上巻】
『かぐや姫の物語』アニメに反逆する、おんな【レビュー下巻】

 



03.『ペーパーボーイ 真夏の引力』 The Paperboy リー・ダニエルズ

野田幸男監督が墓場から蘇り、アメリカの沼地(スワンプ・ウォーター)の中で映画を撮ったのかと思うくらい、ブッ飛んだ内容で、全編クラクラさせられる。この多幸感あふれるめまいを感じたのは、ヴェルナー・ヘルツォーク監督の『バッド・ルーテナント』を観て以来だ。
露悪的なところを狙った作品とはいっても、エロティック描写にしろヴァイオレンス描写にしろ、普通ならブレーキをかけるところで、全然速度を緩めない。リドリー・スコットの『悪の法則』などよりも、断然鋭さを見せる。
アメリカの恥部を掬い取る、リー・ダニエルズ監督の覚悟は賞賛に値する。

 



04.『風立ちぬ』 宮崎駿

大事な人間を犠牲にしても、自国が「破裂」することが分かっていても、作らざるを得ないというクリエイターの狂気を描ききった。
優れた作品づくりのため、たくさんのものを犠牲にした宮崎駿を支配した「魔」を、堀越二郎の半生を描くことで表現されている。

▼この映画のテーマなどについてレビューをしています。
『風立ちぬ』人生の美しき罠

 



05.『アイアン・フィスト』 The Man with the Iron Fists RZA

タランティーノの『ジャンゴ 繋がれざる者』が、気の抜けたソーダに感じてしまう素晴らしさ。
というのも、監督がこの映画の映像そのもの、キャストのアクションやカメラワークに、本気で欲情しているからである。
カン・リーやダニエル・ウーなどのキャストを選ぶというセンスの良さ、さらにデヴィッド・バウティスタという映画界の新星を生み出した功績は大きい。
RZAは本作において、カンフー映画好きのラッパーにとどまってない。『太極 TAICHI ゼロ』、『燃えよ!じじいドラゴン 竜虎激闘』、『グランド・マスター』など、2013年に日本で発表された体術アクションのどれをも凌駕する。この一本だけで、もはや彼はカンフー映画の巨匠監督である。

 



06.『フライト』 Flight ロバート・ゼメキス

本作において、映画を深く理解する深度が劇的に深まったロバート・ゼメキス監督の代表作になるだろう、善悪の彼岸を超えてゆく大胆な映画。
これまでに無いツイストされたプロットの悪ノリも素晴らしいが、入院中のアウトサイダー達三人が、非常階段で煙草を吸うシーンの配置による、美しい画面設計が忘れられない。

 



07.『東京家族』 山田洋次

「切りかえし」や「ロー・ポジション」など、小津安二郎的なショットを、安易にならないように注意深く模倣した 画面内のコンポジションに加え、それを応用した、とりわけ階段の踊り場部分の死角を利用したサスペンスに息を呑む。
だがそれよりも、「人間を描く」という一点においては、小津安二郎監督の『東京物語』に勝っていることが重要だ。山田洋次監督が、自身の得意なやり方で、小津監督の弱点を露呈してみせる。それが何よりもスリリングだ。

 



08.『アウトロー』 Jack Reacher クリストファー・マッカリー

ヴィンテージな映像に、『大いなる西部』や、『夜の大捜査線』などの、本筋に関係の無いオマージュが侵入してくるという訳の分からない映画で、不思議な感覚に興奮させられる。
『夜の大捜査線』に至っては、キャスト(『ペーパーボーイ 真夏の引力』にも出演しているデヴィッド・オイェロウォ)がたまたま「シドニー・ポワチエに似ていたから」という理由で、スーツに細工し、ポワチエそっくりのシルエットに仕上げるという、おかしな演出をしている。この不穏さがたまらない。
BGMを排した、車の追跡シーンも素晴らしくノロノロしたリズムで、さらに敵のアジトに潜入する際の、スナイパーの援護を受けながらじっくりと進んでいく段取りの粘着加減も楽しめる。

 



09.『ラストスタンド』 The Last Stand キム・ジウン

ジョン・カーペンターの『要塞警察』同様に、ハワード・ホークスの『リオ・ブラボー』を基にした立て篭もりアクション。
『箪笥』で心霊ホラーとサイコサスペンスを融合したり、『グッド・バッド・ウィアード』でレオーネ風マカロニ(キムチ)・ウェスタンを撮るなど、何のジャンルでも期待以上の働きができるキム・ジウン監督が、ハリウッドで、初老のシュワルッツネガーを主演に、味のある渋いアクション作品を高い質で完成することに成功。
韓国勢のパク・チャヌクのハリウッド進出作『イノセント・ガーデン』がいまひとつだっただけにうれしい。

 



10.『エリジウム』 Elysium ニール・ブロムカンプ

「強化外骨格」(エクソ・スーツ)という、介護用の機械を思わせる、赤サビの出た不恰好な金属を、無慈悲にも脊髄に連結させ、「一生取り外せない」というフレッシュな設定を作った時点で、評価せざるを得ない。
致死量の放射線を浴びちゃったもんだから、そんなものを装着して、何が何でも宇宙の「エリジウム」に行こうと、どんどんやぶれかぶれになっていくエモーションもすごい。
2013年公開の『オブリビオン』に代表されるように、「既に見たことのある要素」を使って、スマートにマッシュ・アップするような手法にウンザリしていたので、このような「自分が新しい価値を考えていく」開拓スピリットこそが重要だということを強調したい。

 




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