『しゃぼん玉』いつまでも見つめていたい俳優・市原悦子賛

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映画に関する文の中では、基本的に敬称を用いないことにしている私が、市原悦子さんだけには、例外的に「さん」を付けてしまう。
というのは、彼女のインタビュー映像を初めて見たときに、意外に、気位が高くツンツンしているというパーソナリティに触れてしまい、こちらのマゾヒズムが刺激されてしまったからである。
素朴に感じる容姿と、「まんが日本昔ばなし」でたっぷりと味わえる、かわいらしく高いけれど粘度を感じる声質という組み合わせ、そこに宿るスーパーな演技力。日本の映画界、芸能界において、ほとんど見ないタイプの天才である。
ビョーク(Björk)のように巫女的な神秘性を感じるときもあるし、レア・セドゥーのように(同意されたことはほとんどないが)、美しい気品を纏うときもある。
彼女の当たり役である、TVシリーズ「家政婦は見た!」、「おばさんデカ 桜乙女の事件帖」も大好きだし、映画では『青春の殺人者』の熱演がまぶしかったりして、いろいろあるわけだけれど、共通しているのは、とにかく「目が離せない」ということだ。
彼女が出てきたが最後、ロック・オンしたまま延々見続けてしまうのである。だからTVでうっかりその姿を見てしまったら、もうそれ以降は否応なく彼女のための時間になってしまう。
男女を合わせた現役の日本の役者のなかで、そんな風に思わせてしまうのは、私にとって、彼女ただ一人かもしれない。

映画『しゃぼん玉』は、そんな彼女を、林遣都が演じる主人公が、「ずっと見ていたい」、「目に焼き付けたい」という気持ちで、ずっとずっと視線を向け続けるシーンがある。
その演技は、入退院の報を聞いて心配したり、80歳を超えていまだ現役を続けている彼女に対する、私の想いと同期してしまう。
私は、このシーンから、林遣都と市原悦子の「ラブストーリー」と読んだ。

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直木賞作家・乃南アサのベストセラー小説の映画化作品である。金品を奪う通り魔が、逃亡の果てに山村にたどり着き、村人の親切にほだされて改心し始める…。よくアメリカ映画で、西部劇やアクション、またはコメディなどジャンルを超えて、何度も見かける類型的な物語だ。しかし、これをストレートに人情ものとして、ひとつひとつの出来事を繊細にとらえていくという手法は、逆に新鮮に感じる。
村で謎の連続殺人が発生するわけではないし、地主や開発業者が雇うヤクザとの対決や、捕物があるわけでもない。さらに主人公が、感情移入が難しい犯罪者という設定であることから、TVドラマだと、途中でチャンネルを変えられてしまうかもしれない。
集中しながら、俳優の演技をつぶさに「見る」ことで、そこにある静かなサスペンスを感じ取る作品だという意味では、本作は「映画」としての存在意義をしっかりと果たしている。
映画やTVドラマの世界で助監督を務め、「相棒」シリーズ「シーズン7」では監督も果たした、東伸児の映画初監督作品である。
やはりそこには「映画」へのこだわりがあふれている。


『しゃぼん玉』公式サイト 2017年3月4日から順次公開


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