ワコールのリボンブラとフランソワ・オゾン

私はこのワコール「うわさのリボンブラ」なる映像を今まで見たことがなかったのですが、これを眺めていると、何か名状し難い不思議な魅力と、リボンブラ購入への喚起力を感じてしまいます。

しかし我々は一体、具体的にはこの映像の、何に惹かれるというのでしょうか。
弛緩したダンスでしょうか。必然性の感じられない部屋の佇まいでしょうか。
それは謎です。

何にしても、これが以下のフランソワ・オゾンの『焼け石に水』、もしくは彼の『8人の女たち』やらのパロディーであることは、映画ファンには疑いようのないところです。

では、『焼け石に水』とは一体何だったのか。オゾンがここで行おうとした演出プランとは何だったのか。何故我々はこの映像に惹きつけられてしまうのか。
それはやはり謎なのです。
そしてこれと同時に思い出されるのが、オゾンの短編『サマードレス』でのダンスシーンです。

ハッキリしていることは、この状態に突入してしまったオゾンは、誰にも止めることは出来ないし、誰の追随も許そうとしない、ということです。
実際、彼の演出はセンセーショナルだったにも関わらず、ほとんど誰も真似をする者は現れませんでした。ワコールのCMを除いては。
ですから、ワコールのリボンブラと対峙することで、我々はまたしても難解であるが故に脳が本能的に消し去ろうとしていた、オゾンへの、得体の知れない奇妙な感覚と向き合わざるを得なくなるはずです。

少し真面目に思考すると、ミュージカル映画における、ある違和感を、弛緩したダンスと誘うようなカメラ目線によって、メタフィジックに再構成しようとする知性的な挑戦だということを指摘することは、かろうじてできるはずです。
しかし、何故それを人は興味深く見てしまうのか、心を大きく揺さぶられるのか、ということについては、それが十分な答え足り得ているとは言えないでしょう。

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