いつも「k.onoderaの映画批評」をご覧になっていただき、ありがとうございます。
お気づきかもしれませんが、このサイトのタイトル、2015年の秋頃から「小野寺系」という名前を追加しています。
インターネットでは、もう10年近く(!)「k.onodera」と名乗っていたのですが、2015年から「リアルサウンド映画部」という映画メディアで書く機会を得て、匿名の不審者みたいな名前で活動していくのもどうかということで、新しい名前でやっていくことにしました。
また、この機会に、自分の退路を断つべく「映画評論家」を標榜しています。(ちなみに、「映画評論家」は、決まった資格などがあるわけではないので、名乗ろうと思えば誰でも名乗ることができます)
「リアルサウンド映画部」では、4ヶ月で20本ほどの評論を載せてもらいました。怠惰な私としては、ものすごいハイペースです。それはもちろん、仕事として書いているからで、以前から読んでいただいていて、更新頻度に不満を持たれている方には、それなりに喜んでいただけるのではと思っております。
参考:(リアルサウンド映画部の小野寺系の記事)
商業的な媒体に書いていることで批判的な指摘が無くなっているという誤解があるかもしれませんが、「本音」という意味を持つ「リアルサウンド」は制約が少なく、何より多い文字数でじっくりと深く突っ込んで書けるところが素晴らしいです。
そして、このサイト(k.onodera 小野寺系の映画批評)ではこれからも、あくまで作品を厳しくジャッジする「映画批評」を貫こうとも考えています。
前置きが長くなりましたが、それでは、小野寺が2015年に観た作品のベスト10と、講評を発表したいと思います。
01.『妻への家路』 帰来 Coming Home
(中国映画 張芸謀監督)
撮る映画のほとんどが傑作という、中国の巨匠、張芸謀(チャン・イーモウ)監督の傑作中の傑作です。
映画の始めから終わりまで、とにかく観客を泣かせっぱなしにしようとしてくる、凄まじい映画でもあります。
文化大革命が終わり、政治犯として長年収監されていた夫が我が家に帰ると、解放を待ち望んでいたはずの妻は、記憶の障害で夫を認識できなくなっていた。夫は何度も何度も「家に帰る」ふりを続けるのだが、彼女は一向に彼を夫だとは認めない。そして、彼女が夫を夫だと認めることができない裏には、おそろしく哀しい事実があることが、次第に明らかになっていく…。
夫が、妻に受け入られないことを知りながら、何度も帰る演技を続け、または彼女とともに「自分」を待ち続けることができたというのは、政治的信条から、長い間家族に苦労をかけた贖罪でもありますが、「彼女が自分を待っている」、その心にうたれるからでもあるでしょう。そしてすべての観客の心を締め付けるラストシーン。その裏には、文革時代への強い怒りが隠されてもいます。
それは、陳凱歌(チェン・カイコー)監督の自伝的書籍「私の紅衛兵時代」のなかで、時代の犠牲になって孤独に狂死した少女の無念を想起させるものです。もっとも苦しい、もっとも悲しい庶民の物語を掬い上げた、厳しくもやさしい映画です。ぜひ多くの人に観てもらいたいです。
02.『マジック・イン・ムーンライト』 MAGIC IN THE MOONLIGHT
(アメリカ、イギリス映画 ウディ・アレン監督)
この作品は、本当に、本当に過小評価されていると感じます!
本作を観るときに、一緒に観ていただきたいのが、イングマール・ベルイマン監督の、神についての映画作品です。
淀川長治氏が「スウェーデン映画は神の映画」と言ったように、ベルイマン作品は神への信仰をテーマにしたものが多く、なかでも私が最高傑作だと思っている『冬の光』は、神などいないと思い悩む人間が、その苦しみの中で一条の希望に出会うあたたかな作品です。
そのような精神的葛藤を、ウディ・アレン監督は、意識的にパロディ化し、徹底的に茶化しまくります!!
ここまで、深く踏み込んだ冒涜を描くことができるのは、ウディ・アレン監督ただ一人。全体のタイトさも含め、彼の近年の代表作といって間違いないでしょう。
03.『毛皮のヴィーナス』 La Vénus à la fourrure
(フランス、ポーランド映画 ロマン・ポランスキー監督)
ロマン・ポランスキー監督の妻でもあるエマニュエル・セニエに、ロマン・ポランスキー監督そっくりのマチュー・アマルリックをいじめさせるという、個人的に屈折した変態映画です。…と、思ってたら、最終的にわけのわからないことになっていきます。とにかく、たまげました。
04.『マッドマックス 怒りのデス・ロード』 Mad Max: Fury Road
(オーストラリア、アメリカ映画 ジョージ・ミラー監督)
この作品に関しては、本サイト記事「『マッドマックス 怒りのデス・ロード』は映画の始原を辿る」(http://k-onodera.net/?p=1741)でたっぷり解説していますので、是非そちらをご覧ください。
「三丁目のデス・ロード」k.onodera 画
05.『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』
Birdman or (The Unexpected Virtue of Ignorance)
(アメリカ映画 アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督)
この作品に関しては、本サイト記事「『バードマン』あるいは(腐った肉に群がるものたち)」(http://k-onodera.net/?p=1691)でたっぷり解説していますので、是非そちらをご覧ください。
06.『GONIN サーガ』
(日本映画 石井隆監督)
この作品に関しては、リアルサウンド映画部「異端の日本映画『GONIN サーガ』が描く美学 根津甚八を蘇らせた石井隆の作家性とは」(http://realsound.jp/movie/2015/10/post-246.html)でたっぷり解説していますので、是非そちらをご覧ください。
07.『雪の轍』 KIS UYKUSU/WINTER SLEEP
(トルコ、フランス、ドイツ映画 ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督)
チェーホフ文学をトリビュートし、「正しさ」の暴力性を描いた、普遍的名作です。傲慢にならないよう、自分の心を裏切らないように、一歩一歩足場を固めようと決意させられました。
本作については、また別に書きたいと思っています。
08.『キングスマン』 Kingsman: The Secret Service
(イギリス映画 マシュー・ヴォーン監督)
この作品に関しては、リアルサウンド映画部「『キングスマン』が切り拓いた“スパイ映画の新境地”とは? 荒唐無稽な作風の真価」(http://realsound.jp/movie/2015/09/post-186.html)でたっぷり解説していますので、是非そちらをご覧ください。
どれも素晴らしかった2015年のスパイ四大作『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』、『キングスマン』、『コードネーム U.N.C.L.E.』、『スペクター』のなかで、軍配を上げたいと思ったのは、マシュー・ヴォーン監督の『キングスマン』です。私が最も敬愛するスパイ映画であるコメディー、『カジノ・ロワイヤル』(1967)のスノビズム・ギャグの精神を受け継いでいたのが志高く、個人的にも嬉しかったです。
スパイ4大作をレビューしてます M:i5 https://t.co/gyLjqo6smW キングスマン https://t.co/Sm09JGPHpo U.N.C.L.E. https://t.co/xMllxdB7AQ スペクター https://t.co/QeAuFCfqhd
— 小野寺系 k.onodera (@kmovie) 2015, 12月 8
09.『母と暮せば』
(日本映画 山田洋次監督)
この作品に関しては、リアルサウンド映画部「山田洋次監督は新しい映画を撮っている 『母と暮せば』が奏でる、伝統と先進の“交響楽”」(http://realsound.jp/movie/2015/09/post-186.html)でたっぷり解説していますので、是非そちらをご覧ください。
10.『神々のたそがれ』 Viktor Lebedev / HARD TO BE A GOD
(ロシア映画 アレクセイ・ゲルマン監督)
とんでもない映画です。どうしてよいかわからず、とりあえずこの位置にランクインさせておきました。
さてさて!今回はいつになく部門賞も用意しております。
■映画ベストなセリフ大賞■
「誘導するなよ キアヌ」
最近、最も印象に残ったのは、デヴィッド・リンチ監督が言った「誘導するなよ キアヌ」でした。
大物映画人達が真面目に映画におけるフィルムとデジタルの是非について語るドキュメンタリー映画『サイド・バイ・サイド:フィルムからデジタルシネマへ』で、インタビュアーのキアヌ・リーヴスが、リンチ監督に誘導的な質問をしたときのセリフです。
2016年は「誘導するなよ キアヌ」を流行らせていきましょう!
ちなみに、クリストファー・マッカリー監督による、「トムはただ飛行機にぶら下がりたいだけだ」は、惜しくも受賞を逃しました。
■元気な歯並び・オブ・ザ・イヤー■
@kmovie どっちの歯並び?(結果は年末のベストテンの際に発表します)
— 小野寺系 k.onodera (@kmovie) 2015, 11月 21
主人公の歯並びの悪さが目立った2015年のCGアニメ頂上決戦を制したのは、左の歯並びでした!ここでは、ツイッターのアンケート機能を使って、みなさんに投票していただきました。ご協力ありがとうございました。(※ツイートを参照)
それでは、2016年も本サイトをよろしくおねがいいたします!
2 thoughts on “小野寺系 k.onodera 2015年黒獅子ベストテン”