時間の恐怖から逃れる知恵を教えてくれる『ポッピンQ』

「東映アニメーション60周年記念作品」と聞くと、「東映動画」時代の優れたアニメーションの熱狂的なファンとしては心ざわつかせるものがある。

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「東洋のディズニー」を目指した東映動画の、豪華なフルアニメーションの傑作群、やはり東映動画10周年記念作品だった『安寿と厨子王丸』や、『わんぱく王子の大蛇退治』には、いまだ国内のアニメーション作品で比肩し得るものはなかなかないはずである。例えば『かぐや姫の物語』が、これまで蓄積したリソースを蕩尽するかたちでその域にまで達しているが、それはもう、ごくごく一握りの作家による一世一代の例外となっている。そのくらい、当時の東映の力を傾けたアニメーションというのは、一大事業としての芸術として絶対的な存在だった。

…と、いうわけで、東映アニメーション60周年記念作品『ポッピンQ』である。
卒業を間近に控えた女子中学生たちが異世界に迷い込み、ダンスを踊って世界を救うという内容だ。

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「ふざけているのか」と、ちょっと思ってしまうのも無理からぬところだろう。『白蛇伝』や『安寿と厨子王丸』、『どうぶつ宝島』などから考えると、隔世の感がありまくりである。といっても、当時から半世紀以上経っているのだから、社会の需要が変化していくのも当然なのかもしれない。

しかし本作を観てみると、たしかにポップ指向であったり商業的な要素も少なくないものの、印象はだいぶ好転していく。
普通の少女たちが義務教育の終了の時期に、どのような道を選んでいくか、人生に対しどのような態度をとるのかという普遍的なテーマを設定し、その問題にしっかり答えを出しているという、誠実さを感じる脚本に、かつての「東映動画」に連なるものが見いだせたからである。これは「ただの萌えアニメ」と言って切り捨てるようなものではないのではないか。

本作では「時間」が重要な要素となる。
ダンスの修行や仲間を助ける冒険のなかで、「過去」の出来事にとらわれてしまい前に進めない主人公、また、自分の「未来」の姿を見てしまう少女。
このふたつの描写が置かれることで、人間は「時間」という観念に支配される存在なのだということが強調される。

とりわけ女性の若さの価値というのが重く見られる現代の社会通念では、絶えず流れ続ける「時間」は「恐怖」の対象でもある。それを表しているのが、劇中の主人公の「老い」の描写として表れている。
では、その恐怖に対し、少女たちは、そして我々はどう対処していけばいいのか。
それは、常に現在の自分と向き合い、少しずつでも前に進む努力を続けるということだと、本作では示される。

今の自分が変わることで、過去に過度に縛られることはなくなり、未来をより良いものにしていくことができる。そして、その助けになるのが「スキル」もしくは「自分の好きなこと」を大事にすることだということが、戦いの展開の中で描かれていく。その通りだと思う。ここではそれが「魔法の力」として表現されている。
それさえあれば彼女たちは今後、男や若さなどに過度に依存することなく、たとえおばあちゃんになっても、体力の続く限り、身体を動かしたり音楽を楽しんだりして生きていけるのではないだろうか。
ここでは、時間の恐怖からの「解放」、そして精神的な「自立」が描かれている。
このような知恵は、生きる上での何らかのヒントになり得るので、とくに小、中高生の女子にも観て欲しいと感じる。

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キャラクターデザインは、いわゆる「萌え絵」の範疇にあるものの、歯の描き方が、偶然か意識したものか、東映動画の森康二氏のデザインに似ており、敵キャラクターたちの丸みを帯びた形も、デザイン化されたクラシカルで、そういうところでも、昔なつかしい雰囲気を味わえる。

宮原直樹監督の演出は、アニメーション製作のキャリアのなかで培った確かさがあり、際立った意外性や、よい意味での異物感のようなものは希薄な反面、要所でスコン、スコンと気持ちよく決まっていく。この職人的でリラックスした上手さは、例えば、いまだに硬くぎこちなく感じる新海誠監督の演出には無いものだ。
宮原監督は「プリキュア」シリーズの作品なども手がけている。そのキャラクターが総出演する演出作品同様に、本作でも観客へのサービス精神に溢れていて、とにかくにくめない。鑑賞時、こんなに試写室がほっこりとした和やかな雰囲気になるというのは経験したことがなかった。

ヴィジュアル的な見どころは、やはりCGを利用したダンスシーンということになるだろう。もともと「プリキュア」シリーズにダンスの要素が持ち込まれ、人体がグリグリと動いていくという身体表現を達成したのは、日本のアニメーション表現のなかでもかなり重要な事件だったのではないか。
「ラブライブ!」では、手描きの絵とCGの絵を馴染ませる努力を強く感じたが、本作はその一歩先を味わえると思う。CG表現の点では、手で描くことにこだわりすぎた面があり、立ち遅れてしまった感のある日本のアニメーションだが、CGを利用して二次元世界をより魅力的なものとした高畑勲監督や、あの宮崎駿監督までもがCGでアニメーションを製作しだしたように、新しい技術による、日本的な世界、身体の表現にはこれからも注目していきたい。



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